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「新・方法」第50号

寄稿と作品からなるEメール機関誌「新・方法」第50号をお届けします。今号の寄稿者は、美術評論家の土屋誠一さんです。

[寄稿]

伝統について(祝・創刊50号!)
土屋誠一(美術批評家)

エリック・ホブズボームが言うように、およそ伝統なるものは「創られた伝統」以外のなにものでもないわけだけれども、たとえそれがフェイクであっても、実は結構重要だと最近ようやく思うようになった。私は最近、そういった本ばかりを読んでいるのだけれども、その動機は、なにかのルーツを知りたいわけでは無論なく、それらの書物は、過去への遡りを言説化することによって、近代を定位するという作業を目論んでいることが明白なのであり、私としては、近代を駆動させていく前進運動と、過去へと遡行する後退運動とのヤバいスパークを理解したいのだ。
そもそも、「新・方法」の親玉であった「方法」同人も、怪しげであった。中ザワは原理的な話ばかりしているし、松井は私と同い年のくせにやたらとオッサン臭いし、足立は「土屋とか超バカでしょ」と私をdisっていると伝え聞き(私はむしろ敬意を持っているのに。ああ……)、三輪に至っては、ベテランの作曲家なのに、なにやってんすか?と思っていた。そして、私よりも若い連中が「新・方法」なる活動を開始したことを知り、大丈夫か?こいつら?とさらに懐疑的に感じていた。しかし、先に述べた「伝統」という点を重ね合わせると、かなり見通しが変わる可能性がある。親玉の「方法」が、まだ「前衛」への屈託を抱えた、モダニストの顔をした、いかにもポストモダニスティックな身振りだったと考えるならば、「方法」の伝統を「屈託なく」引き継ぐ「新・方法」は、その屈託のなさゆえに、ひょっとしてこいつらはヤバいのではないかとも思う。
「伝統」などという言葉を、それこそ屈託なく(あるいは屈託がないふりをしつつ)持ち出すのは、そもそも社会がどうかしている時なのであり(日本の開国から大戦への道諦を想起せよ)、私はそういった徹底を「新・方法」に期待する。そもそも「現代芸術かつ伝統主義」などと言い始めたら、それこそ倒錯以外のなにものでもない。けれども、このどうかしている時代において、まともな人間として無理やり振る舞おうとすることのほうが、よほど倒錯的なのであり、そのことに多くの人間は気づいていない。だから「新・方法」は、「方法」の「伝統」を屈託なく引き継ぐことで、徹底した「芸術保守主義者」として振る舞えばいい。勿論、これはリスキーな賭けだ。しかし、その徹底をなし得た様を想像すると、その姿は幾分、アナキストを思わせるのである。

[新・方法主義者のウェブ作品]

- 平間貴大

誰にもつくれない作品

http://hrmtkhr.web.fc2.com/new-method/050_j.html

解説無し

- 馬場省吾

バイナリデータ表示 第五番

http://7x7whitebell.net/new-method/shogobaba/050_j.html

本作では、「新・方法主義Shift_JIS宣言」の本文のバイナリデータを十六進数で表示し、色彩情報として扱っている。
「新・方法主義Shift_JIS宣言」は規則的なデータのため、この作品では規則的な色彩が表示される。
(参考)「新・方法主義Shift_JIS宣言」http://7x7whitebell.net/new-method/manifesto_sjis.html

- 皆藤将

SNS広告

http://masarukaido.com/newmethod/b050_j.html

私の任意の期間に、Facebook、Titter、InstagramなどのSNSに「機関誌「新・方法」第50号 皆藤将WEB作品」と題し、本作URLにひも付けた広告を出稿する。本作品(広告)の鑑賞者は、私の恣意的なセグメンテーション設定によって、例えば「埼玉県在住のガーデニングを趣味とする42歳女性」とか、「猫画像botばかりフォローしている男性」といったように限定される。作品ページには、特に意味はないが最近撮影したセルフポートレイトをアップした。なお、本作品はその出稿広告が各SNSの運営会社に承認されなければ失敗作となる。

[お知らせ]

- 「新・方法」はウェブサイトを更新しました。 http://7x7whitebell.net/new-method/

- 平間貴大はウェブサイトを更新しました。 http://qwertyupoiu.archive661.com/

- 馬場省吾はウェブサイトを更新しました。 http://7x7whitebell.net/

- 皆藤将はウェブサイトを更新しました。 http://masarukaido.com/

- このEメール機関誌の配信をご希望のかたは新・方法主義者にご連絡ください。

- このEメール機関誌は転送自由ですが、著作権は放棄されていません。

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[編集後記]

「新・方法」の元メンバーである中ザワヒデキが発起人代表となり「人工知能美学芸術研究会」が5月1日に発足しました。「新・方法」の平間、馬場、皆藤もそれぞれ発起人に名を連ねております。
「人工知能美学芸術研究会」 https://www.facebook.com/groups/1155307841158207/ (新・方法)

発行人

平間貴大 @qwertyu1357

馬場省吾 @shogobaba

皆藤将 @kaido1900

機関誌「新・方法」第50号 日本語版

2016年6月4日発行